本記事では3D CADに関する次の内容について、FA業界で10年以上働いている筆者がわかりやすく解説します。
・3D CADとは
・3D CADのメリット
・3D CADの基本的なモデリングの仕方
・おすすめ3D CAD10選
・3D CADの価格
3D CADを自社で活用したい方、製造業ではどんな3D CADが使われているか知りたい方は、ぜひ最後まで読んでみてください。
3D CADとは

3D CAD(Computer Aided Design)は、コンピュータ上で3次元の形状を表現し、構想設計や詳細設計を効率化するツールです。製造業ではすでに多くの企業が製品設計に採用しています。
製品を作るには、設計図となる図面が必要です。昔は、図面を描くためにドラフターとよばれる製図台を使っていました。設計者は、ドラフターに設置された縮尺定規などを用いて手書きで図面を書いていました。
コンピューターが普及すると、設計者はドラフターに代わってCAD(2D CAD)を使うようになりました。2D CADはコンピュータ上の2次元平面上に線を描画するツールです。寸法線や記号が手書きよりも効率的に描くことができ、コンピュータ上で図面を保存・管理できるのがドラフターに対するメリットです。現在でも2D CADを用いて製品設計している企業は多いです。
そして2000年代はじめごろから、3D CADが先進的な企業で使われはじめました。今では多くの企業が3D CADを活用しています。3D CADのメリットをつぎに解説します。
3D CADを使う機会があるのは機械設計者や産業用ロボット設計技術者です。関連記事に仕事内容を解説していますので、こちらもご参考ください。
3D CADのメリット
3D CADはものの形状をコンピュータ上に3次元で表現します。これによって、次のメリットがあります。
複雑な構造物の設計ミスが減らせる

出展元:ガンプラのできるまで|SPECIAL|バンダイ ホビーセンター
3D CADを使うことで、設計者は3次元形状のモデルを確認できます。これにより、2D図面では見落としやすい部分の隙間や干渉も把握しやすくなり、設計ミスが減少します。
たとえば、プラモデルの設計で3D CADが活用されています。プラモデルは多くのパーツが組み合わさって、車や飛行機などの乗り物や、アニメのキャラクターを表現しています。
プラモデル設計者は、3D CADで可動部分の干渉チェックをしたり、さまざまなアングルから形状のバランスを確認できます。これによって設計部門の大幅な効率化が実現できたと言われています。
生産部門や加工部門との連携がスムーズ
3D CADを使うことで、生産部門や加工部門との連携をスムーズにすることができます。
3Dモデルを生産部門と共有することで、図面だけでは伝わりづらい形状を齟齬なく明確に伝えることができます。これにより、生産部門における生産準備や生産工程でのミスが軽減されます。
3D CADのモデルは加工部門でも有効活用できます。近年、NC工作機械のプログラムには3D CADのデータから工具の経路(ツールパス)を自動で作成する機能があります。加工者は、この機能を使うことで加工時間を削減することができます。
CAEとの連携がスムーズ
CAE(Computer Aided Engineering)とは、試作や実験をしなくてもコンピュータ上で強度解析や熱流体解析などのシミュレーションを行う手法のことです。
3D CADを用いると、CAEとの連携がスムーズになります。これにより、設計段階での解析が効率よくでき、製品開発期間が短縮します。
多くの製品はCAEによってシミュレーションが行われており、壊れない強度や、熱くなりすぎない温度上昇などが設計段階で検討されています。
従来の2D CADで設計された製品をシミュレーションするためには、CAE上で3次元の解析モデルを作成する工程がありました。3D CADを使うと、3次元データをそのまま解析モデルに流用することで、CAEの工数を大幅に短縮することができます。
3D CADの基本的なモデリングの仕方

3D CADの基本的なモデリング方法「押し出し」と「回転」
3D CADのモデリングでは、まず2Dスケッチを作成し、それを基に3Dモデルを構築します。3D CADでは「押し出し」「回転」の2つの基本的な操作があります。このモデリングの操作を覚えることで、初心者でもさまざまな形状の3Dモデルを作成できます。
押し出し
「押し出し」は2Dスケッチを一定の厚みだけ伸ばして3Dモデルを作る方法で、立方体や四角柱形状のモデリングに適しています。
回転
「回転」は2Dスケッチを中心軸周りに回転させて3Dモデルを生成する方法で、円筒や円錐などの対称形状のモデリングに適しています。
おすすめ3D CAD10選

出展元:Dassault Systèmes® CATIA(Advanced Micro Devices)
ここでは、おすすめ3D CAD10選を紹介します。3D CADは、機能・価格によって大きくハイエンドCAD、ミッドレンジCAD、ローエンドCADに分類されています。
とくにハイエンドCAD、ミッドレンジCADは製造業の設計現場においてよく使われています。この中から機能・価格に応じて適した製品を選べば大きな間違いはないです。
ハイエンドCAD
ハイエンドCADは高度な設計機能やデータ管理機能を持っていますが、その分価格は高く設定されています。主に大企業が採用しています。
CATIA
CATIA(キャティア)は、フランスのDassault Systemes(ダッソー・システムズ)社が開発したハイエンドCADです。CATIAは、複雑な形状のモデリングが得意であり、航空機や自動車の部品設計に適しています。
航空・自動車業界では、多くの完成品メーカーやサプライヤーがCATIAを使っています。そのため、データの互換性や共有を考えると、この業界内ではCATIAがおすすめです。
CATIAは、自動車最大手のトヨタなどで採用されています。
参考URL:https://www.elysium-global.com/ja/customer_story/toyota/
NX
NXは、Siemens社のハイエンドCADです。NXの特徴は大きく2つあります。
1つ目の特徴は、3次元形状を表現するためにパラメトリックモデリングやダイレクトモデリングといったさまざまな手法があることです。
2つ目の特徴は、CAM(Computer Aided Manufacturing、コンピュータ支援製造)やPLM(Product Lifecycle Management、製品ライフサイクル管理)との連携が容易で、データ変換が不要であることです。
NXは、マツダやパナソニックなどで採用されています。
参考URL:https://www.mazda.com/globalassets/ja/assets/innovation/technology/gihou/2017/files/2017_no021.pdf
参考URL:
https://monoist.itmedia.co.jp/mn/articles/1405/12/news043.html
Creo
Creoは、アメリカのPTC社が開発しているハイエンドCADです。Creoも他のハイエンドCAD同様に、高度なモデリング手法や、CAM・PLMとの連携手段を用意しています。
Creoはデータ管理システム「Windchill」と連携し、CADデータを製造部門、営業部門とリアルタイムに共有できます。これにより、常に設計部門の最新データが各部門に共有され、データ更新時のミスを減らせます。
Creoは日本特殊陶業やUDトラックスなどで採用されています。
参考URL:https://www.ptc.com/ja/news/2019/ngk-selects-windchill-and-creo
参考URL:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC27AX70X20C22A7000000/
ミッドレンジCAD
ミッドレンジCADは、ハイエンドCADとローエンドCADの中間的な機能を持つCADです。ハイエンドCADほど高機能ではありませんが、その分価格が抑えらています。
ミッドレンジCADの性能は年々向上しており、このクラスの3D CADを製品設計で使っているユーザーさんも多いです。「3D CADを導入してみたいけど、ハイエンドCADは値段が高すぎる」とお思いの方は、まずはミッドレンジCADの検討をおすすめします。
Solidworks
Solidworksは、フランスのDassault Systemes(ダッソー・システムズ)社が開発したミッドレンジCADです。
Solidworksの特徴は、機能の豊富さにあります。ミッドレンジCADでありながら、モデリングの手法の多様さ、シミュレーション機能、CAM・PDMとの連携機能を備えています。これらの機能の豊富さは、ハイエンドCADに近いです。
実際にSolidworksは人気のある3D CADです。日本での3D CADのシェアはSolidworksが1位で、約40%といわれています。
参考URL:https://www.edrawingsviewer.jp/ed/news/04/index.html
iCAD
iCADは元富士通グループのiCAD社が開発したミッドレンジCADです。iCADの特徴は大きく2つあります。
1つ目の特徴は、動作が軽いことです。iCADは部品点数が多いアセンブリであっても描画が早く、たとえば生産ライン全体を3D CADで設計することに向いています。
2つ目の特徴は、日本国内メーカーの製品であることです。海外メーカーの製品は、問い合わせ内容によっては海外の本社に連絡することがある分、回答が遅くなりがちです。iCADは国内メーカーのため、問い合わせの回答も一般的に早くなることが期待できます。
参考URL:https://bizroad-svc.com/icad-lp/
Solid Edge
Solid EdgeはSiemens社のミッドレンジCADです。Solid Edgeの特徴は大きく2つあります。
1つ目の特徴は、3Dモデリングが初心者でも比較的覚えやすく、直感的に操作できることです。
2つ目の特徴は、形状修正しても待ち時間がほぼゼロであるという特徴があります。Solid Edgeは3Dモデルを変更したときに履歴を保持しません。この履歴を保持しない編集方法をノンヒストリーと呼びます。ノンヒストリーで編集された3D CADのモデルは、ファイルサイズが小さく、ノートPCでも快適に操作ができます。
Inventor
InventorはアメリカのAutodesk社が開発したミッドレンジCADです。Inventorの特徴は、同社の2D CADである「AutoCAD」の2D図面との連携に力を入れていることです。
AutoCADは2D CADでは代表的な製品で、機械メーカーや建築業界など、さまざまな業界で使われています。AutoCADで設計した図面を有効活用したい場合は、Inventorをまずは検討してみましょう。
ローエンドCAD
3Dモデルを作成するための基本的な機能に限った3D CADです。機能が限られている分、費用は無料なものが多いです。有料であっても、個人でも導入可能な価格帯となっています。
Fusion360
Fusion360はAutodesk社が開発したローエンドCADです。Fusion360の特徴は、クラウドベースであることです。メールアドレスを登録してアカウントを作成すれば、ネット上のデータをノートPCでもスマホでも編集できます。場所を選ばず3D CADを使いたい人におすすめです。
TinkerCAD
TinkerCADはAutodesk社が開発したローエンドCADです。TinkerCADの特徴は、ブラウザ上で使用でき、初心者でも簡単に操作できることです。インターネットが繋がるパソコンやタブレットがあれば、誰でも簡単に3Dモデルの作成ができます。
FreeCAD
FreeCADは、オープンソースで開発されたローエンドCADです。名前(Free)のとおり無料で使うことができるうえに高機能なことが特徴です。
FreeCADはマクロやプラグインでカスタマイズが可能で拡張性も高い反面、インタフェースが独特です。そのため、最初は使いにくく感じるかもしれません。やや玄人向けの3D CADです。
3D CADの価格
ここでは、3D CADの価格についてハイエンドCAD、ミッドレンジCAD、ローエンドCADに分類して解説します。3D CADはライセンス費用としてサブスクリプションとして販売される形態と、ローカルPCでも動作できるスタンドアローン版と年間保守費用として販売される形態があります。
ハイエンドCADの価格
ハイエンドCADの価格は一般的に年間100万円~数百万円ほどが目安です。オプションやCAE機能の有無によって価格は変動します。
たとえば、Creo Design Premiumの価格は年間3,423,000円です(2023年5月現在)。この中には、3Dモデルの自由曲面作成機能や、構造解析・熱解析などのCAE機能が含まれています。
参考URL:https://www.itreview.jp/products/creo-parametric/price#review-144497
ミッドレンジCADの価格
ミッドレンジCADの価格は一般的に年間数十万円~100万円ほどが目安です。オプションやCAE機能の有無によって価格は変動します。
たとえば、Solidworks Premiumの価格は年間924,800円です(2023年5月現在)。これはSolidworksの最上位パッケージで、ケーブル・配管のルーティング機能や、線形解析のCAE機能が含まれています。
参考URL:https://www.cadjapan.com/products/items/solidworks/price.html
ローエンドCADの価格
ローエンドCADの価格は一般的に無料~年間10万円が目安です。たとえば、Fusion360は個人利用やスタートアップ企業向けにはフリーソフト(無料)として利用できます。有料版は年間71,500円です(2023年5月現在)。
参考URL:https://www.autodesk.co.jp/products/fusion-360/overview?term=1-YEAR&tab=subscription
まとめ
この記事では「3D CADのメリット・おすすめ3DCAD10選・3D CADの価格」について解説しました。
設計プロセスそのものの効率化や、3Dデータの共有による生産効率の向上など、3D CADのメリットは大きいです。実際に、採用している企業は年々増えています。この記事が、自社に最適な3D CADを選定するきっかけになれば幸いです。