製品開発において、構想設計から詳細設計へと至るプロセスは、「アイデアを形にする」ための重要な橋渡しです。
しかし、実際の現場ではこの“つながり”が断絶しており、設計意図の伝達ミスや手戻り、設計変更の反映漏れなどが起こりがちです。
このような設計プロセスの非効率を解消するために、いま多くの企業が注目しているのが「設計データの連携」と「設計DX(デジタルトランスフォーメーション)」です。
本記事では、構想設計と詳細設計の違いからスタートし、なぜその“間”をつなぐことが重要なのか、そして具体的にどのような技術・仕組みが必要なのかを、実務目線で徹底解説します。
Contents
構想設計と詳細設計の違いとは?
構想設計の役割:コンセプト・大枠の方向性決定
構想設計とは、製品や装置の基本構造・機能・性能の“コンセプト”を決める段階です。主に以下のような検討が行われます:
- 駆動方式(電動/空圧/油圧)
- 製品全体のレイアウトと構成案
- 市販部品の選定と要素技術の適用
- 性能とコストのバランス(概算見積もり)
この段階では、まだ詳細な図面や部品の寸法は決まっていませんが、「どのように実現するか」という道筋を描く極めて重要なフェーズです。
詳細設計の役割:仕様落とし込みと図面化
一方、詳細設計は構想設計で決まった方針をもとに、実際に製造可能な形へと“具体化”する工程です。
- 各部品の寸法・材質・公差の設定
- 組立図・部品図の作成
- CAEによる強度・熱・流体の解析
- DFM(製造性考慮設計)やFMEA(故障モードの洗い出し)
図面化やモデリングが中心になるため、「CADで形にする仕事」と思われがちですが、真に求められるのは構想を正しく解釈し、破綻なく製品へと落とし込む設計力です。
それぞれの目的とアウトプットの違い
構想設計と詳細設計は連続した工程ですが、求められるアウトプットと視点は大きく異なります。
設計フェーズ | 主な目的 | 主なアウトプット |
構想設計 | 製品の実現手段を検討する | 構成図、概略レイアウト、構想案、概算見積もり |
詳細設計 | 製品仕様に落とし込み図面化 | 部品図、組立図、CAE結果、公差表など |
この違いを理解することが、データの連携やDXを進める上での出発点となります。
設計データをつなげることがなぜ重要なのか?
部門間の分断による情報ロスのリスク
構想設計を担当する上流工程の設計者と、詳細設計や製造を担当する下流工程の設計者・製造部門の間には、しばしば“壁”が存在します。
- 「構想図面だけでは意図が伝わらない」
- 「使ってほしい部品が違うものに変えられていた」
- 「設計者の意図が現場で理解されず、トラブルが起きた」
このようなケースは、情報の共有手段が図面・メール・口頭などに限定されていることが主な原因です。
属人化や引き継ぎ不足によって、「なぜその設計になったのか」が伝わらない――それが最大のリスクです。
設計変更が現場に伝わらないことで起きるミス
設計変更は開発現場で日常的に発生します。しかし、その情報が正しく伝わらないと大きな損失につながります。
- 設計変更後の図面が反映されず、旧仕様で部品を製作
- 解析のパラメータだけ更新され、図面が古いまま
- 部品表(BOM)が更新されず、資材調達が誤発注
こうした「見えないズレ」が積み重なると、納期遅延、コスト増、品質事故といった重大トラブルにつながる可能性があります。
手戻り・再設計のコスト増大を防ぐには?
設計工程の“分断”が生む最大の問題は「手戻り」です。
ある調査では、**製造業における不具合対応コストの40%以上が“設計起因”**とも言われています。
構想設計で検討した内容が正しく詳細設計に反映されていなかったり、試作後に「仕様が違っていた」と判明して再設計になるケースも少なくありません。
手戻りのコストは以下のように複雑に波及します:
- 設計工数の増大
- 試作品の作り直し
- 製造部門のスケジュール調整
- 顧客への納期影響・信頼損失
だからこそ、構想設計から詳細設計へのスムーズな“データ接続”が不可欠なのです。
データ連携がもたらすメリット
設計意図・背景が正しく伝わる
構想設計でなぜその構成を採用したのか、どのような制約や想定条件があったのか――そうした「意図」を、単なる図面ではなくデータ+背景情報として連携できれば、詳細設計者は正しい判断ができるようになります。
設計レビューでも、関係者全員が同じ設計データにアクセスし、リアルタイムで検討・修正できる仕組みが整えば、意思決定のスピードと精度は飛躍的に向上します。
部品の再利用や標準化の推進
設計データを構想から一貫して管理することで、「過去に使った部品」「類似構成の実績」がデータベースとして蓄積されます。これにより:
- 同じような機能の部品を再利用可能
- 標準化された部品構成によりコストダウン
- 調達・検査・保守の効率化
属人的な「引き出し」から、組織的な「ナレッジ共有」へと進化することができます。
チェック工程の自動化・設計ミスの削減
設計情報がデジタル化され、構成間でつながっていれば、自動チェックによる設計ミスの削減も可能です。
- 部品の二重登録やミス寸法の検出
- 公差・ねじ規格の自動照合
- 組立順のシミュレーションによる干渉チェック
これらのプロセスは、エンジニアの確認負担を軽減し、品質とスピードを同時に向上させる武器となります。
シミュレーションや解析とのスムーズな連携
3D CADからCAE、構成情報、製造条件までが一元管理されていれば、設計段階でのシミュレーション自動化も現実のものになります。
たとえば:
- 設計変更時に自動で解析再実行
- 最終構成の強度データが自動反映
- 複数案を同一基準で比較評価
これにより、「解析は後工程」「シミュレーションはオプション」といった感覚が一変し、“当たり前のプロセス”として設計に組み込まれるのです。
データをつなぐための仕組みと技術
PLM(製品ライフサイクル管理)とは?
PLM(Product Lifecycle Management)は、製品の企画から設計、製造、販売、保守に至るまでの全ライフサイクルを一元管理する仕組みです。
設計部門では、「設計情報を統合・共有する基盤」として活用されることが多く、以下のような役割を担います:
- バージョン管理と変更履歴の記録
- 製品構成(BOM)の管理
- 文書や図面の紐づけ管理
- 部門間のレビュー・承認フローの統合
PLMを導入することで、構想設計から詳細設計、そして製造現場までの情報が一本の線でつながり、見える化されます。
これにより、設計変更の反映漏れや、図面の行き違いなどのミスを防ぐ土台が築かれます。
3D CAD/CAEと構成管理
3D CADとCAEは、設計現場における「作図」と「解析」の中心的ツールですが、単独では効果を最大限に発揮できません。
重要なのは、これらのツールがPLMや構成管理システムと連携しているかどうかです。
- CADデータがPLMに紐づいて保存され、変更履歴やコメントが残る
- 解析モデルと設計モデルが自動で同期され、設計変更に即対応できる
- 組立構成情報(アセンブリ)と製品構成(BOM)が一致している
構成管理が不十分だと、「どのデータが最新か」「どのバージョンを使って評価したか」がわからなくなり、設計信頼性が崩れます。
CAD/CAEを“ツール”として使うのではなく、“プロセスに組み込む”視点がDXの本質です。
BOM連携(EBOMとMBOMの整合性)
BOM(部品表)には、大きく分けて2種類あります:
- EBOM(Engineering BOM):設計者が定義する製品構成
- MBOM(Manufacturing BOM):製造部門が管理する実際の生産構成
この2つのBOMが整合していないと、設計通りに作っても製造ができなかったり、材料の手配ミスが発生します。
たとえば:
- EBOMには“仮想部品”があるが、MBOMには不要
- 製造上の組立順でMBOM構成が変わる
PLMやERP(基幹業務システム)と連携し、BOMの整合性と変更履歴を一元管理できることが、設計から製造へのスムーズな移行を実現するカギとなります。
バージョン管理とトレーサビリティ確保
設計DXの基盤として欠かせないのが**「誰が・いつ・何を・なぜ変更したか」を正確に記録する仕組み**です。
- 図面やCADデータのバージョン管理
- 設計レビューや承認履歴の記録
- 設計変更通知(ECR/ECO)との連動
これにより、不具合発生時に過去の設計へトレースでき、設計の品質保証が格段に向上します。
“履歴のない設計”は、再発防止も改善提案もできません。設計の信頼性は、情報の透明性と履歴管理に支えられているのです。
実現のための社内体制と業務プロセスの整
開発・設計・製造部門間の協業体制
データ連携はITツールだけでは成り立ちません。まず必要なのは**“部門を越えた協業体制”**です。
具体的には:
- 開発段階から製造現場を巻き込んだ仕様検討
- 早期のレビューによる手戻りリスクの低減
- 製造・品質部門からのフィードバックの設計反映
部門間に壁があると、せっかくのデータも流通せず、結果的に“設計DX”は名ばかりのものになります。
ワークフローの標準化とガイドライン整備
設計の流れやデータ登録手順が人によって違うと、システムを導入しても効果が出ません。
そのためには:
- 設計変更の承認フローを明文化
- ファイル命名規則やフォルダ構成の統一
- バージョンアップの手順書作成
こうした“ルールの見える化”が、全社レベルでの設計プロセス改革を支えます。
データハンドリングのルール共有
図面やモデルデータは、設計者個人の持ち物ではありません。
だからこそ、全員が共通認識を持てるようにデータの管理・登録・共有ルールを社内で共有することが大切です。
- 誰がどのタイミングで保存・更新するか
- 古いデータの削除・アーカイブ基準
- 社外共有時のセキュリティ基準
これらのルールを整備・徹底しないままDXを進めても、かえって混乱を招くだけです。
ITシステム導入だけでなく“運用文化”も重要
設計DXの本質は「仕組み+人」です。
どれだけ優れたPLMやCADを導入しても、使う人間の意識と習慣が変わらなければ、形だけの改革に終わってしまいます。
- 「どうせ使わなくてもバレない」という意識を改める
- 「ルールを守る」ではなく「ルールを使いこなす」文化を育てる
- IT部門と設計部門の信頼関係を築く
“ツール”を導入することと、“業務”が変わることは別です。現場の意識改革を伴う「運用文化づくり」こそ、設計DX成功の本丸です。
よくある課題とその対策
データ整備の属人化/ブラックボックス化
担当者の頭の中だけで設計データが管理されている、俗に言う「ブラックボックス化」は、属人化の象徴です。
こうした状態では、担当が変わった瞬間にナレッジが失われ、引き継ぎが困難になります。
対策としては:
- PLM上での設計意図・検討履歴の記録
- ノウハウ共有のための設計レビュー議事録
- ドキュメントとCADデータの紐づけ
“情報の見える化”が、属人化を解消する最初の一歩です。
システム導入と現場運用の乖離
ツールは導入したが、現場が使いこなせない…というのはよくある問題です。
- UIが複雑で入力が面倒
- 実務に合っていない承認フロー
- 現場でのトレーニング不足
これを解決するには、**現場目線でシステムを再設計する「カスタマイズ」と、徹底したオンボーディング支援」**が不可欠です。
過去図面の活用困難/引き継ぎの問題
過去図面がバラバラのフォーマットで保存されていたり、物理保管されている状態だと、再利用や引き継ぎが困難です。
また、図面の設計意図が不明確で、再設計せざるを得ないケースも散見されます。
この課題に対しては:
- 図面の電子化・データベース化
- ナレッジ付き図面(備考・変更理由)への移行
- 検索性の高いファイル命名規則の導入
設計データを“過去資産”から“未来資源”へと変えていくことが、持続的な設計効率化につながります。
中小企業における導入・継続の壁
PLMや構成管理システムは、「コストが高い」「運用負荷が重い」という理由で中小企業では導入が進まないケースもあります。
しかし、最近ではクラウド型PLMやSaaS型設計支援ツールが登場し、初期投資を抑えて導入できるようになっています。
- 小規模でも効果が出やすい範囲からスタート
- 部門単位でのスモールスタートと段階的展開
- 外部パートナー(SIerやDX支援会社)の活用
“100点を目指す”のではなく、“まずは始めてみる”ことが、中小企業における成功の秘訣です。
まとめ:構想~詳細設計を「線でつなぐ」ことが、設計品質と効率のカギ
かつての設計は、各工程を「点」でとらえるものでした。
しかし今求められているのは、それらの点を**「線」でつなぎ、全体最適を実現する」設計マネジメント**です。
- 属人化を脱し、データを“組織の資産”に
- 情報の見える化とバージョン管理で、品質とスピードを両立
- 過去のノウハウと未来の設計が、一本の流れでつながる環境へ
こうした連携の強化こそが、設計の信頼性を高め、企業の競争力を左右する鍵になります。
単なるツール導入ではなく、仕組みと文化の両輪で進める設計DXが、いま製造業にとって最重要テーマなのです。
Otokogi合同会社では、設計DX推進を支援しています
Otokogi合同会社は、全国3,000名以上の技術者ネットワークを活かし、設計業務の効率化・標準化・デジタル化を一貫してサポートしています。
- PLM/CAD導入支援・運用設計
- 設計データの整理・活用アドバイス
- 属人化の解消と業務プロセス標準化
- 中小企業向けDX支援サービスも多数
「うちも設計DXを始めたい」「まずは相談したい」という企業様、
ぜひ一度、Otokogiまでご連絡ください。📩 ご相談・お問い合わせはこちらから
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