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キャビテーションポンプとは?原因・対策・機種選定のポイントを徹底解説

「ポンプから異音がする」「部品がすぐに摩耗する」「吐出量が不安定」――
このようなトラブルの裏に潜んでいるのが、“キャビテーション”です。
特にポンプはキャビテーションの発生源になりやすく、機器選定や配管設計を誤ると深刻な損傷を招く可能性があります。

本記事では、ポンプにおけるキャビテーションのメカニズムとその影響をわかりやすく解説しながら、対策技術やポンプ選定のポイントまでを体系的に紹介します。
「そもそもキャビテーションとは?」「対策としてどのようなポンプがあるの?」という疑問をお持ちの方に向けた、実務に役立つ一冊です。


Contents

キャビテーションとは?ポンプに与える影響をおさらい

キャビテーションの定義とメカニズム

キャビテーションとは、液体中の圧力が急激に低下し、その蒸気圧以下になることで気泡が発生し、再び高圧領域で一気に潰れる現象です。
この「気泡の発生と崩壊」が繰り返されると、微細な衝撃が金属表面を削り取り、設備損傷へと発展します。

ポンプ内部では、吸込み口周辺やインペラの入口部分でキャビテーションが発生しやすく、特にNPSH(正味吸込みヘッド)が不足しているとリスクが高まります。


ポンプでキャビテーションが起こる主な条件

キャビテーションがポンプで発生する条件として、次のような要因が挙げられます。

  • 吸込み側の圧力が低すぎる(NPSHa < NPSHr)
  • 吐出量・揚程に対してポンプが過負荷運転している
  • 液温が高く、蒸気圧が上がっている
  • ストレーナーや配管に詰まりがあり圧力損失が大きい

これらはいずれも設計・運用の誤りが積み重なることで発生するため、日常点検や仕様の見直しで予防可能です。


インペラ・ケーシングの損傷例とその兆候

キャビテーションの初期段階では、小さな異音や振動として現れますが、進行するとポンプ内部の金属が点状に削られていきます。

  • インペラの羽根先端に多数のピット痕(小さな穴)
  • ケーシング内壁の“虫食い状”の摩耗
  • 主軸部の振れやバランス不良による異音

これらはすべてキャビテーションの“サイン”であり、放置すればインペラ交換・軸受け交換といった大がかりな修理に発展するリスクがあります。


なぜポンプでキャビテーションが発生しやすいのか?

吸込み圧力が不足する(NPSHa < NPSHr)

ポンプメーカーが提示する「NPSHr(必要吸込みヘッド)」に対して、実際の現場の「NPSHa(有効吸込みヘッド)」が不足すると、ポンプが正常に吸い込めずキャビテーションが発生します。

  • 配管長が長い
  • バルブが過剰に絞られている
  • 吸込み側の液面が低い

こうした要因が重なると、ポンプ内で急激に圧力が下がり、気泡が発生しやすくなります。


ポンプ選定ミス(揚程・流量の不適合)

キャビテーションは、ポンプの能力に対して実際の運転条件が合っていない場合にも発生します。

  • 必要以上に高揚程・高出力なポンプを使用している
  • 実際の流量が性能曲線の外に外れている
  • 過負荷運転により吸込み条件が悪化

ポンプは「大きければ安心」という考えではなく、実使用条件とマッチした性能で選定することが極めて重要です。


長く複雑な吸込み配管やストレーナーの詰まり

吸込み側の配管が長い・曲がりが多い・径が細いといった構成は、圧力損失を増加させてキャビテーションの引き金になります。

また、ストレーナーやフィルターに異物が詰まっていると、

  • 局所的な圧力低下が発生
  • 流体の乱れが生じて気泡が発生しやすくなる

定期的な清掃・点検と配管設計の見直しが求められます。


液温が高く、蒸気圧が上昇する条件下の使用

液体の温度が高いと、その分蒸気圧も上昇し、圧力が少しでも下がると容易に気泡が発生します。

  • ボイラー水、温水、溶剤などの高温液体を扱うライン
  • 夏場の屋外設置設備
  • 長時間運転でポンプ本体が発熱している状態

こうした条件下では、キャビテーションのリスクが通常より数段高くなります。


キャビテーションを防ぐポンプ設計と対策技術

ポンプ起因のキャビテーションを予防するには、「NPSHrを下げる工夫」「吸込み効率を上げる設計」「液温・圧力の制御」など、複合的な対策が必要です。


NPSHrの低いポンプとは?(低NPSH型)

近年では、NPSHr(必要吸込みヘッド)の低い設計を採用したポンプも多く、「NPSHaが確保しにくい現場」でもキャビテーションを起こしにくい特徴があります。

  • 吸込み性能が高く、低位置からの揚液が可能
  • 低NPSH型インペラを使用(大径・特殊形状)
  • ケーシング形状を工夫し流路をスムーズに

こうした設計は、食品・化学・医薬業界など、精密設備が多い業種でも重宝されています。


スラリーポンプ・タービンポンプの設計特性

キャビテーション対策として使用されるポンプには、スラリーポンプやタービンポンプなどの構造的特徴が有効です。

  • スラリーポンプ:高粘度・固形物混入液に強く、耐キャビテーション性が高い
  • タービンポンプ:多段インペラで揚程を稼ぎつつ、NPSHrを抑える

選定時には、用途に応じて「どの液体をどう搬送するか」を明確にすることが大前提です。


吸込み側の設計改善(径、長さ、落差)

  • 吸込み配管の径を太くする
  • 曲がりを減らして直線距離を長く確保
  • タンクの液面よりポンプを低い位置に設置

こうした設計上の工夫により、吸込み損失が軽減され、結果としてキャビテーションリスクが低下します。


インペラ形状の最適化(軸流/斜流など)

インペラ形状を見直すことで、キャビテーションの発生位置や気泡分布を変えることが可能です。

  • 軸流型:低NPSH、高流量に適する
  • 斜流型:揚程と流量のバランスが良い
  • 開放型インペラ:詰まりに強く、負圧が集中しにくい

このような設計調整は、標準仕様のまま使用するよりも、現場に最適化された解決策となり得ます。

キャビテーションに強いポンプの種類と選び方

キャビテーションのリスクを低減するためには、機器の運用方法だけでなく「そもそもどのようなポンプを選ぶか」が極めて重要です。ここでは、キャビテーション対策に効果的なポンプの種類と、それぞれの特徴について解説します。

渦巻ポンプ(NPSHが高く取れるケース)

渦巻ポンプは、流体を回転させながら遠心力を利用して圧力を上げる一般的なタイプです。NPSH(必須吸込みヘッド)が比較的高く取れるレイアウトで使用すれば、キャビテーションが発生しにくい利点があります。ただし、吸込み配管の設計や液面との高低差には注意が必要です。

多段ポンプ・斜流ポンプ(段階圧縮によるキャビ対策)

多段ポンプは、複数のインペラを連続的に配置することで段階的に圧力を高める仕組みになっており、吸込み部の圧力上昇を緩やかに行えるため、キャビテーションの発生を抑えられます。斜流ポンプも流れがスムーズで衝撃が少なく、耐キャビテーション性能に優れています。

サブマージポンプ(水没型で吸込み損失低)

液中に沈めて使用するサブマージポンプは、吸込み高さの損失が非常に小さくなるため、NPSHa(利用可能吸込みヘッド)を大きく確保できます。地下水の汲み上げや冷却水循環系などで使用されるケースが多く、吸込みトラブルの回避に向いています。

真空補助機能付きポンプ(初期吸込み確保)

キャビテーションは「ポンプの空転」時に発生することもあります。真空補助機能付きのポンプは、運転開始時に自動的に吸込みラインの空気を排除し、確実に液体を引き込む構造になっており、空運転の防止につながります。初期吸込みが不安定な設置環境には有効です。


現場でできるキャビテーション対策

ポンプの種類に加え、日常の運用や点検でもキャビテーションのリスクを抑えることが可能です。以下に現場で実践できる対策を紹介します。

吸込み高さ・揚程の再確認

設置時には問題がなくても、運用中に設備が変わることでNPSHaが不足するケースがあります。特に老朽化によって吸込み高さが変化する場合があるため、定期的に現場状況を再評価することが重要です。

定期的なストレーナー清掃・配管内の圧力チェック

ストレーナーやフィルターの詰まりは、吸込み側の圧力を低下させ、キャビテーションを引き起こす直接的な要因です。配管の詰まりや腐食も同様であり、定期的な点検・清掃を怠らないようにしましょう。

使用液温の把握と冷却対策

液温が高くなると、液体の蒸気圧が上昇し、わずかな圧力低下で気化しやすくなります。特に冷却水系や高温流体を扱う装置では、冷却装置や熱交換器のメンテナンスもキャビテーション防止の一環です。

バイパスラインやサージタンクの設置

急激な流量変動や圧力変動もキャビテーションの原因となります。これを緩和するために、バイパスラインで流量を安定させたり、サージタンクを設置して圧力のバッファを設けることでリスクを軽減できます。


ポンプ選定時にチェックすべきポイント

ポンプを新設・更新する際には、以下の観点をしっかりと押さえておくことがキャビテーション対策の要になります。

使用条件の整理(液体の性状、流量、温度、設置環境)

液体の粘度、比重、温度、異物混入の有無、運転時間、設置環境などの条件を細かく整理しておきましょう。これらを正確に伝えることで、メーカーや業者が適切なポンプ選定をサポートしやすくなります。

NPSHマージンの考え方(NPSHa > NPSHr + 安全率)

NPSHa(実際の吸込みヘッド)がNPSHr(ポンプの必要吸込みヘッド)を上回っているだけでは安心できません。一般には、安全率を加味して「NPSHa ≧ NPSHr + 0.5〜1.0m」程度を確保するのが望ましいとされています。

メーカーの仕様書で確認すべき項目

ポンプの仕様書では、NPSHrの曲線、性能曲線(流量−揚程−効率)をしっかり確認し、自社の使用条件とマッチしているかを検討します。仕様書は単なるカタログではなく、リスクを回避するための“設計図”と捉えましょう。

経験ある業者への相談・シミュレーション依頼も検討

キャビテーションが発生しやすい運転条件や特殊流体を扱うケースでは、流体解析(CFD)やシミュレーションを行ってくれる専門業者への相談も有効です。ポンプ設計だけでなく、配管全体の見直しにつながることもあります。


まとめ:キャビテーションを防ぐには“ポンプ選定と運用”が決め手

キャビテーションは、「適切なポンプを選ぶ」「現場の運用条件を整える」「日常点検で早期発見する」という3つの要素のバランスによって、予防が可能なトラブルです。

  • ポンプは流体制御設備の心臓部であり、選定を誤ると故障・生産停止という深刻な問題につながります。
  • 日常から吸込み条件、液温、圧力、清掃状況などに注意を払い、定期点検と異常兆候の記録を継続することでリスクを最小化できます。
  • 万が一のキャビテーション発生を未然に防ぐには、信頼できる専門業者との連携も非常に重要です。

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